誤解だらけの風土改革、意識改革すべきは現場でなく経営者

概要

 会社の風土改革って難しいよなっていう話です。

   風土改革っていうと、現場の意識改革の施策が打たれます。しかし、意識を変えなければいけないのは、現場ではなく経営者です。

 

はじめに

 風土改革ってどうやるのだろう?と考えていたときに、三菱マテリアルの不正が再び起こった報道を見ました。題材として三菱マテリアルを使いますが、この会社の固有の話ではなく、そこから汎化したどこにでもある話として書きます。

 

事例

www.nikkei.com

 2017年11月に三菱マテリアルの関連会社で品質不正(品質が基準より低い製品を客に出荷していた)が見つかりました。さらに3か月後の2月に別の関連会社で品質不正が見つかった、というものです。

 

 ここで大切なのは、最初に不正が見つかった後も、不正を続けた会社があることです。

 グループ会社で品質不正が見つかったら、グループ全体に「品質不正してはダメだ」という指示が出る筈なんです。でも、その指示を現場は無視したということです。では、なぜ現場は指示を無視したのでしょう?

 

 もう一つの事例を見てみましょう。三菱自動車の燃費偽装の事件です。この事件に関する特別調査委員会による「燃費不正問題に関する調査報告書(要約版)」に以下の様にあります。

第 8 章 再発防止策

当委員会は、第 7 章の原因・背景分析をもとに、具体的な再発防止策を検討したが、その内容は、MMC がこれまでに策定し、取り組んできた再発防止策の内容と共通するものが多いことに気付いた。特に、コンプライアンス研修・教育の実施といった意識改革や監査体制の強化などの再発防止策は、これまでにも、MMC において、形を変えて、幾度となく実施されてきたものである。しかし、残念なことに、MMC において、こうした再発防止策がそのままでは機能しないであろうことは、過去の度重なる不祥事を経たにもかかわらず、本件問題が発覚しないまま継続されてきたという動かし難い事実からも、容易に想像できる。開発本部をはじめ、従業員の中には、これまでに講じられてきた数々の再発防止策を「こなす」ことに時間を奪われ、本来の業務に時間を割けなくなってしまっている現状にストレスを感じている者も多くいる。このことを考えれば、MMC の従業員にとって「手垢の付いた」ものと受け止められてしまうような再発防止策を提示したところで、従業員の士気を下げてしまい、コンプライアンスを軽視する風潮を変えられないばかりか、かえって助長することにもなりかねない。また、MMC の現状に鑑みると、外部から具体的な再発防止策を提示されたところで、MMC は、当事者意識のないまま、これらのメニューを「こなす」だけで満足してしまう可能性もある。

 

 三菱自動車では、コンプライアンス研修・教育の実施などはこれまでさんざんやって、そのたびに現場は「またやらされるのか」「流しておくか」と思いながらこなしていた。だから、今回も再発防止はできないと言っています。

 

結局何が問題か?

 三菱マテリアルも三菱自動車でも、本社の指示を現場が無視してやり過ごしていました。

   不正をしてはいけません、こんな当たり前の指示を無視する現場って問題ですよね。

 

なぜ、当たり前の指示が無視されるか?

  そもそも当たり前の指示にはどんなものがあるでしょうか?「不正をしてはいけない」、「売り上げを上げなければいけない」、「コストを下げなければいけない」  など沢山あります。しかも、これらは互いに矛盾するものもあります。

  例えば、「品質を上げる」と「コストを下げる」は互いに矛盾します。本社が「品質を上げろ」といったり「コストを下げろ」と言ったりすると、現場は自分たちなりのトレードオフポイントを設定することになります。

  三菱マテリアルでは、品質は何よりも優先すると関連会社に言っていたようですが、同時に利益を出せとも言っていたのだと思います。本社から「品質は何よりも優先する」と現場が聞いた時、現場は「そうは言っても不良が出たと言ったら、どうせ怒るくせに」と思って聞いていたのでしょう。

   つまり、相反する指示が本社から出ると現場は自分たちなりのトレードオフポイントを設定し、本社の思い通りにはならない、ということです。

 

   次に本社からの指示経路について考えます。

 「品質を上げる」という指示が社長から本社幹部に出たとき、本社幹部が関連会社の社長に「品質を上げろ」と指示を出し、関連会社社長が部長に、さらに部長が課長に、課長がメンバーに「品質を上げろ」と指示が伝達される場合が殆どでしょう。

  でもこれっておかしいですよね?

  社長からの指示が下に降りて行くだけで、誰も方策を考えていません。「品質を上げろ」と末端のメンバーが言われても、「どうやって?」と聞き返したところで誰も考えていません。それでは実行の使用がありません。

  つまり、社長からの抽象的な指示が方策なしにそのまま下に伝言ゲームされていき、実行を現場に任せると、それは実行されない、ということです。

 

 こういったことが続くと、現場には「利益を上げろ」「コストを下げろ」「品質を上げろ」という指示がスローガン化していきます。

 

なぜ、指示が伝言ゲームで下に降りるのか?

  社長が「品質を上げろ」と言った時、社長にはそれをどう実行すれば良いのか分かりません。現場を知らないからです。そのための方策を考えるのは、中間管理職の役目です。

  中間管理職も最初は方策を考えていたと思います。品質を上げるため、チェック体制を工夫するとか、技術導入を図るなど。しかし、もっと「品質を上げろ」ともっともっとと、求められていくうちに彼らもアイデアが尽きてきます。すると、上からの「品質を上げろ」という指示をそのまま下に流すようになっていきます。

  こうして、社長の指示が方策を考えられないまま下に伝言ゲームされていくようになります。

 

  中間管理職はアイデアが尽きた時、上からの指示に無理ですと、なぜ言えないのでしょうか?

  それは上からの指示が正論だからです。品質を上げるのは製造部としては当然のことですから、それにNoとは答えられず、頑張りますと答えることになります。

 

  つまり、上からの指示を実現するアイデアが中間管理職になくなった時、正論(指示)がそのまま下に落ちていきます

 

 

 上から下への伝言ゲームは防げるか?

   会社とは相矛盾する要求のバランスをとりながら運営するものです。「品質を上げる」、「コストを下げる」この両者を競合よりも高いレベルでバランスを取る必要があります。

  もっと「品質を上げる」と指示する時、中間管理職にアイデアがない場合にはその上のレベルで別の施策を考えるのが適切です。しかしながら、正論をぶつけられる中間管理職は、できません・アイデアはありませんとはなかなか言えないでしょう。特に上司が、アイデアを出すのは君の仕事だという態度で挑んできた時にはなおさらです。

  中間管理職の上司は、過去に同様の状況で苦しんでアイデアを出した経験を持っていると、自体はさらに悲劇的です。できませんという中間管理職を、サボっているとか努力が足りないと考えがちです。すると、一層それは君の仕事だと態度を硬化させて中間管理職を追い詰めることになります。

  このような組織で共通するのは、上(上司)を見て仕事をする社風でしょう。経営幹部は社長の顔色を見て、部長の様子に気が回りません。部長も経営幹部の顔色を見て、課長の様子に気が回りません。そうして、指示は下に下ろすが、下の様子を見ることも助けることもなありません。どの階層もやるのは下の仕事だと思っているからです。

 

風土改革は誰のため?

  風土改革というと、組織一人一人の意識改革などと言って、現場で勉強会やディスカッションをさせられます。しかし、こうやって考えると意識を変えるべきは経営者です。現場にたいして勉強会をして風土改革をやる組織は絶望的です。

  経営者の意識改革こそ必要なのです。

 

まとめ

  風土改革がしばしば話題に上がる。

  現場の意識を変える施策が打たれることが多いが、意識を変えるべきは経営者である。風土を荒らしているのは、正論を下に押し付ける経営者なのだから。