夢や希望は捨てて、現実的にAIについてまとめた

 AI(人工知能)についてまとめます。

なぜAIについてまとめるのか?

 AIという言葉が流行っています。言葉が流行ってくると、言葉が拡張されます。AIという言葉の示す範囲が広がるのです。つまり言葉の定義がぼやけます。定義がぼやけたままネットニュースなど情報に触れても、情報をうまく整理できません。ここいらで一度AIについて整理するのが良いと思います。

 

ユビキタス時代の学び

 昔ユビキタスという言葉が流行りました。Aからいったん離れて、ユビキタス時代に起こったことを整理してそこから学びましょう。

ユビキタスの用語の拡張

 もともとユビキタスとは、コンピュータが人々の周りにたくさんあるという意味でした。これが流行ると、ネットワーク技術もユビキタスと呼ばれ、高機能材料もユビキタスと呼ばれました。

 コンサルや企業や研究者が、自分たちの分野をユビキタスと呼び出したことが言葉の拡張の原因です。

 国の研究費やベンチャーキャピタル等のお金が、ユビキタスという言葉に向かって流れていきました。そのおこぼれにあずかるため、皆が自分の担当をユビキタスと呼んだのです。

ユビキタスは終わった

 みんなが夢中になったユビキタスは終わりました。これは重要です。流行りは終わるのです。

ユビキタスのあとに残ったもの

 「ユビキタス=遍在する」、つまり「ユビキタス=(据え置きの)コンピュータがあちらこちらに置かれる世界」の定義に従い、フォローミーサービスや、トランスコーディング技術、セキュリティ技術などが盛んに研究され、ビジネス投資もされました。

 しかし、日本がユビキタスに浮かれている間に、GoogleやAmazonはデータセンターに投資し、コンピュータはデータセンターに集中しておりました。ユビキタス(遍在)とは逆方向でした。また、AppleはiPhoneを作り出し、今や一人一台スマホを持ち歩く世界となり、当時想定していなかったモバイルコンピューティング全盛の時代が来ています。

 つまり、ユビキタスは大外れだったのです。

 

AI時代の心構え

 ユビキタスの学びから、以下を心に留めておく必要があります。

  • AIの言葉は拡張される。
    国の研究費・ベンチャー資金等がAIという言葉に向かって流れていきます。この資金を獲得するため、皆自分のことをAIと呼ぶでしょう。また、コンサルが「これからのAI活用」などといって、たいして新しくもないことにAIという言葉で目新しさを出すことでしょう。
    私の実感として、既にIoT・ビッグデータはもうAIと同じ意味で使われています。DNAから病気になりやすさを予測する技術もAIと呼ばれ始めています(本当はこれは遺伝子医療技術なんだけど)
  • AI時代はいつか終わる。
    たぶん2,3年以内にAI時代は終わります。2年の国プロを2回やって、経済効果が出ないと、国は次のキーワードを探し始めます。技術ブレークスルーはそうそう出てきませんので、すぐAI時代は終わるでしょう。
  • AI技術というものは存在しない。
    ユビキタス技術というものが存在しなかったのと同様に、AI技術というものは存在しません。統計や予測、文字認識、画像認識、ニューラルネットワークなどといった技術の総称としてAI技術と呼んでいます。

AIに関する視点

 AIに関して様々な視点で情報が発信されています。これらの視点は以下のように分類できます。これらを一つ一つ見ていきます。

  • 技術に関するもの
  • ビジネスに関するもの
  • 未来社会に関するもの
  • 倫理に関するもの

技術に関するもの

 GoogleのAlpha GOが碁を打ったとか、将棋ソフトが名人に勝ったとか、画像認識で猫の絵を見分けたとかいう類のものです。

 DNN(深層学習)のブレークスルーが、最近のAIブームの発端です。従来のニューラルネットワークよりも大量のデータを学習させると認識性能が上がりました。ネットの時代で大量のデータが蓄積できること、GPUやプロセッサの進歩で大量データの処理ができるようになったというのが、性能向上の要因です。

 大量のデータをDNNに突っ込めばそれでOKというものではなく、ニューラルネットのモデルづくりに職人芸(つまり試行錯誤)が必要です。世の中の研究者はこの試行錯誤に心血を注いでいます。

 DNNをGPUで実行するのではなく、専用ハードウエアを作る研究も盛んです。Googleの深層学習チップ「TPU」が有名です。他にも、インテルがArtificial Intelligence Products Group(AIPG)という部署を作って人工知能ハードウエアの研究をしています。

 AIと呼ぶことに違和感がありますが、車の自動運転技術もよく聞きます。画像やレーダーの情報から人間や車や道を認識するというものです。トヨタや日産など世界の自動車メーカーが一生懸命研究しています。

ビジネスに関するもの

 ネットニュースでよく出てくるのはこのカテゴリです。

 GEのPredix, IBMのWatson, 日立のLumadaといった商品が出ています。用途は、工場の生産性を高める(機械の故障を予測するとか、製品の不具合を減らすとか)が主です。医療でのトライアルも行われていますが、モノになるのは先でしょう。あとは、株取引の自動化とか。サポートセンターの問い合わせを自動で行うボットとかがビジネスの主戦場です。

未来社会に関するもの

 AIに仕事が奪われるとか、機械が人間より賢くなるシンギュラリティが来るとかいうやつです。

 シンギュラリティとは未来学者レイ・カーツワイルが唱えたものです(未来学者って何?、と世間が突っ込まないのが不思議ですが)。要するに技術の進化は指数的に速度を増すので、2045年にはその進化速度は滅茶苦茶速くなってなんかすごいことが起きるという楽観的な予想です。コンサルがものをしゃべるときの前振りとして「シンギュラリティが来るぞ」と言って便利に使われている言葉です。

 強いAI・弱いAIという言葉もあります。下の記事が良くまとまっています。AI技術を発展させていけば「心」を作ることができると考えるのが「強いAI論者」、AI技術を突き詰めても「心」は作れないと考えるのが「弱いAI論者」です。強いAI技術(つまり心を持ったAI)があるわけではありません。

rmaruy.hatenablog.com

 

 さらに、汎用AI・特化型AIという言葉もあります。ドラえもんみたいに、掃除をしたり・のびたの宿題を手伝ったり・怒るママをなだめたり、様々なことができるのが汎用AI、碁を打ったり・将棋をしたり・猫を見分けたりと何か一つのことしかできないのが特化型AIです。

 DNNを突き詰めて汎用AIができると考えている技術者はいないと思いますが、あくまで未来社会として汎用AIの夢が語られています。

倫理に関するもの

 AI関係でこれが一番厄介な話です。大まかに2種類の話があります。

  • AIが賢くなって(「心」を持つとか、汎用AIができるとか)、AI自身に倫理を求める(AI自身の倫理)
  • AIを使ったり設計したりする人間の倫理が問題になる(AIに関する人間の倫理)

 一つ目(AIが賢くなってAI自身に倫理(良いことと悪いことの区別)を求める)については、SF作家のアシモフのロボット三原則を引き合いに出してくるタイプの話です。技術的には、「心」を持ったAIや汎用型のAIが実現する気配は今のところ全くないので、無視していて良い議論でしょう。

 二つ目(AIに関する人間の論理)については、注意深く見守る必要があると思います。これは、トロッコ問題(電車がまっすぐ進むと3人をはねてしまう、線路を切り替えると2人をはねてしまう、このとき線路を切り替えるべきか否か、という問題)が引き合いに出ることが多い。

 派生問題として、車の自動運転を考えます。車が自動走行中に前方からヘルメットをかぶっていないバイクが突っ込んできたとします。車がこれを避けると、その隣のヘルメットをかぶった運転手のバイクに突っ込んでしまいます。さて、車はどちらに突っ込むべきか?という問題です。バイクの運転手の生存率を考えればヘルメットをかぶった方に突っ込むべきです。一方で法律を守っているのはヘルメットをかぶっている方なので、逆の方に突っ込むべきとも考えられます。

 この派生問題を考えれば、これがAIの倫理問題ではなく、AIをどう設計すべきかという人間の倫理問題であることが分かります。

 また、車が自動運転でなく人間が運転していると考えましょう。前からバイクが突っ込んでくるという咄嗟の判断が要求されるため、人間が運転手ならばどちらを選択しても倫理を問題にされたりはしません(人間の能力を超えるため)。つまり、自動運転では、AIの設計問題として予め考えることができるため、倫理問題として問題となってくるのです。

 別の問題として、AIが確率的にしか判断できないことに起因する問題があります。例えば、DNAから病気になりやすさをAIが判断できるとして、この判断は100%確実ではありません。10人中7人は病気になりやすいといった確率的なものです。では、AIが確率的に病気になりやすいと判断された人の保険料を高く設定してよいでしょうか?さらに、入社試験で病気になりやすいと判断された人を不合格にしてよいでしょうか?これも、保険料を設定したり、入社試験の合否を決めるのはAIではなく人間ですから、人間の倫理の問題なのです。

 さらに別の問題として、選択の自由にかかわる問題もあります。プライバシーとは「自分の生活を、干渉されることなく主体的につくっていく権利」だと考える人がいます。AIによって人間の反応が予想されこれに誘導されることはプライバシーの侵害に関わるという議論があります。

 二つ目の(AIに関する人間の倫理)問題に関しては、このように正解はありません。みんなで議論して決めていこうという類の問題です。そのため、これがどこに落ち着くのか読めません。

 

まとめ

 AIについて大枠をまとめました。

 AI技術なるものは存在せず、またAI時代も数年で終わると考えています。それでも、数年は、様々な資金がAIに向かって流れていき、情報も溢れかえるでしょう。

 今後の情報を整理するため、AIの大枠を意識しておくことが大切です。